研究概要 |
成熟ラットの肝細胞では,アドレナリン作動性応答はα1受容体を介するが,この細胞を低密度で初代培養するとβ2受容体を介するようになる(サブタイプスイッチング).このサブタイプスイッチングは培養肝細胞の増殖と相関し,さらに培養時に成熟ラット肝より部分精製した細胞膜画分の添加によって阻害される.そこで本研究ではこの細胞膜に存在する増殖阻止因子を同定するとともに,その阻止機構の解明を目指し研究を開始した.その結果,最終目的である増殖阻害因子の同定には至らなかったものの,以下に述べる新たな知見を得た. (1)膜標品の調製法を検討する過程で,原形質膜のみならず,いわゆるミクロソーム画分に含まれる膜成分も増殖阻害作用を有することが判明した. (2)ある種の膜標品調製法により得られる粗膜画分中に,増殖阻害因子とともに増殖促進因子が存在していることを新たに見いだした.すなわち,成熟ラット肝細胞膜には,細胞の増殖と阻害を司る因子が共存していることが判明した. (3)種々の薬物のサブタイプスイッチングに及ぼす効果について検討し,アポトーシスを引き起こすもの,サブタイプスイッチングを阻止するものなどを見いだした. 本研究より,原形質膜やミクロソーム画分に含まれる膜成分中に細胞の増殖と阻害を司る因子が共存していることが解明された.生体はその恒常性を維持するために,個々の生体反応において正と負のフィードバック機構を兼ねそなえている。細胞増殖においても正の調節因子としての各種増殖因子の作用に関する研究に加えて負の調節因子としての増殖阻害因子の役割が注目されはじめている.また,正常細胞と癌化細胞とを区別する重要な性質のひとつとして細胞増殖時の接触阻害が挙げられるが,増殖阻害因子に対する抵抗性の獲得は,細胞癌化の重要なステップと考える.上述の(1)〜(3)についてはいずれも未だ論文作製中の段階であるがこれら新知見のメカニズムの解析や,本研究で示された両因子が同定されれば,細胞の増殖制御に関する新知見を与えるのみでなく,“細胞癌化機構の解明"にも貢献することが期待される.
|