研究概要 |
α1受容体は近年の遺伝しクローニングより少なくとも3種のサブタイプの存在が同定され、α1受容体の種々の機能は複数のサブタイプに特異的に担われている可能性が示唆され、その機能は現在新しい観点から考え直されようとしている。このような背景のもと、本研究では、各α1受容体サブタイプ特異的抗体を用い、心筋細胞膜イオンチャネル活動への影響を薬理、電気生理学的に解析し、心筋電気活動に於ける各α1受容体サブタイプの役割について検討した。現在α1アドレナリン受容体刺激による心筋膜イオンチャネル活動に及ぼす影響には、一過性外向きK電流(Ito)の抑制、内向きCa電流(ICa)の増強、各種外向きKチャネル電流(IK,Ach等)の増強が考えられているが、著しい種差が存在し、更に報告者間で実験手法が異なり、統一した見解を欠いている。本年度は、電気生理学手法を用い、各受容体サブタイプの心筋電気活動における役割を明らかにする目的で、特にラット心室筋における一過性外向きK電流(Ito)の抑制について薬理学的検討を行った。まず、ラット単離心室筋細胞に発現する各α1受容体サブタイプ微量受容体遺伝子mRNAを特異的プライマーを用い逆転写酵素-PCR法にて検出し、各α1a,1b及び1dの3種の存在を認めた。一方、各サブタイプ受容体遺伝子を発現した細胞を用いて、各サブタイプ受容体特異的リガンドを決定した。すなわち、α1A受容体に特異的拮抗薬でありKMD、5-メチルウラピヂル、α1B受容体を不可逆的に不活化するクロルエチルクロニジン等の薬理特性を決定した。これら薬物を用いて、ラット心室筋における一過性外向きK電流(Ito)の抑制についてパッチクランプ法にて電気生理学的解析を行った。ラット心室筋一過性外向きK電流(Ito)はα1受容体刺激(メトキサミン、ノルアドレナリン)により強力に抑制され、この反応はサブタイプ非特異的拮抗薬プラゾシンにより完全に抑制された。次に、クロルエチルクロニジンは約60%抑制し、更にKDM、5-メチルウラピヂルの低濃度の添加により完全に抑制を受けた。以上より、α1受容体を介するラット心室筋一過性外向きK電流(Ito)の抑制はα1A及びα1B受容体の両者(遺伝子レベルではα1a,1b)により担われていることが明らかとなった。
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