研究概要 |
空間認知に及ぼす影響:これまでの研究から10分間の脳虚血の単回処置では血流再開の24時間後には著明な空間認知記憶障害が発現するが,訓練を重ねるとこの障害は回復していくことを明らかにした.しかし,虚血時間を20分間に延長すると記憶の障害はさらに著明になるが虚血中に死亡したり,片麻痺などで課題の遂行が出来ない例が現れた.そこで3,5および10分間の虚血処置を繰り返し行うと,3および5分間の虚血をそれぞれ2〜3回繰り返した処置群では記憶の障害は軽度であり死亡例もなかった.しかし10分間虚血を繰り返し行うと1週間後でも虚血処置の回数に依存して著明な空間認知障害が認められ,生存率は2回の繰り返しで90%,3回では75%であった. 脳細胞への影響:繰り返し脳虚血による背側海馬(DH)の錐体細胞の影響について組織標本を光学顕微鏡下で観察した結果,虚血回数に依存して細胞の萎縮,脱落による残存細胞数の減少が著明になり,グリア細胞の増殖も認められた. ACh遊離に及ぼす影響:記憶・学習に深く関わる前頭葉皮質(FC)ならびにDHからのAChの遊離について検討した結果,FCでは10分間の虚血処置中約3倍の一過性の増加が見られ,この増加は2,3回目の虚血処置でも同様に認められた.しかしDHでは1,2回目の虚血中にみられた過剰遊離が3回目の虚血中では認められなかった.一方,虚血24時間後,7日後のACh遊離量はFC,DH共に虚血回数に依存して有意に減少することが判った. 薬物の影響:繰り返し虚血処置による1週間後にみられる空間認知障害はNMDAアンタゴニストであるMK-801,NA関連薬のL-threo-DOPSならびにACh関連薬のTHAによって有意に改善されることが判った. glucoseの動態:脳神経細胞障害の引き金と言える脳局所部位におけるエネルギー代謝の障害が,繰り返し脳虚血の早期からどのような変化を来すかを調べる目的で,in vivo biosensor法を開発し,脳エネルギー代謝の基質であるglucoseの動態を測定した結果,FC,DH共に虚血処置直後から急激に減少したglucoseは虚血中はほぼ一定の値を示し,血流再開と共に徐々に上昇したが,血流再開約15分をpeakに徐々に減少し,血流再開約50分で虚血前のレベルに復することが判った.この様な変化は2,3回目の虚血中も同様に認められた.
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