研究概要 |
昭和30年代に建設された公団住宅は,広さ・設備など住戸水準の低下や,恵まれた立地条件が生かされていないことを理由に,昭和60年度から建替え事業が進められている。しかし,その建替えは,家賃の高額化だけでなく,既存コミュニティの崩壊,住棟の高層化による居住環境の悪化など,居住継続を困難にする要素を含んでいる。そこで本研究は、関西地区において公団賃貸住宅建替え事業に指定されている団地のうち、既に高層団地として管理が開始されている団地を選定し、高層化を中心とする住環境の改変が居住者の生活に与える影響を明らかにするとともに,安定居住を保障する望ましい建て替えのあり方を検討することを目的として実施した。 その結果,以下の知見を見出すことができた。 (1)団地の建替えにあたっては,住み慣れた地域や親しい人々への愛着から,戻り入居を希望する人が多い。したがって,建替え事業は,「不特定居住者」ではなく「特定居住者」を視野にいれて進める必要がある。(2)戻り入居者は高齢者比率が高いので,空間のバリアフリー化を広範囲に進める必要がある。その意味で,住棟の高層化によってエレベータ-が設置されたことは居住者に高く評価されていた。(3)住棟の高層化は否定的には捉えられてはいなかったが,従来の中層住宅の段階室型アクセス形式と比べて,階段・廊下などの共用部分において人々が交流する機会が減少したとの指摘があった。今後は,室外空間も含む共用空間の構成に工夫が求められる。(4)家賃の高額化は,戻り入居者の高齢化とあいまって、ますます居住継続を不安にさせているが,公営住宅の併設も含めて,居住継続を可能にする方策が必要とされている。
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