1994年度は、在宅で高齢者を介護する家族に対し公費を支給する社会合理性とその給付水準の解明という研究課題遂行のため、1.現在すすめられている「老人保健福祉計画」における高齢者像の批判的検討、2.ノーマリゼイションの観点から高齢者への在宅福祉サービス内容の吟味、3.高齢者が自立した生活をおくるために家族との関係はどうあるべきかについて整理した。その結論は、1.高齢者像を他人に世話をされる消極的な存在から潜在能力の発揮を求める積極的な存在へと転換すべきこと、2.高齢社会が本当の意味で福祉社会となるには、高齢者への社会サービスがすべての社会の構成員にとっても必要なものとして、包括的内容をもたなければならないこと、3.高齢者の介護は家族に依存するのではなく会社が責任をもたなければならないことである。 さらに従来のわが国の福祉行政の基本的考え方に深く影響を与えてきた「日本型福祉社会」論へ批判をとおして、上記の研究課題をすすめるための基本的視点の確立につとめた。それは高齢者の扶養と介護についての家族と社会福祉との関係を明らかにすることであり、現段階での福祉行政は、高齢者の扶養と介護を基本的に家族の責任とする「日本型福祉社会」論の考え方から根本的に脱却しておらず、そのため家族による高齢者介護の金銭的・労力的負担について過少評価があるということであった。そのため、1994年度から実施段階に入った「老人保健福祉計画」においても家族の無償の介護労働を前提として計画目標数値が掲げられている。
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