研究概要 |
実験(1):高齢者における局所発汗(m_<sw>:測定部位;前額,胸,背,前腕,大腿)と皮膚血流量(LDF:前額,胸,大腿)の部位特性を検討するため,10名の高齢者男性(O群;64-76歳)と11名の若年成人男性(Y群;21-25歳)に対し,35℃・45%rh環境下で下肢温浴(42℃)を60分間要求した。暴露中O群はY群に比し,m_<sw>が背と大腿,LDFが胸と大腿で有意に低かった。他の測定部位のm_<sw>とLDFには群差がみられなかった。皮膚血管コンダクタンス(CVC:LDF/平均血圧)も,LDFと同様の群差が各部位でみられた。すなわち,O群においてm_<sw>,LDF,CVCがY群と同等な部位(前額),m_<sw>は同等だがLDFとCVCが低い部位(胸),三者すべて低い部位(大腿)が存在した。また,高齢者におけるLDFは,大腿部で日常歩行量と有意な正の相関関係を認めた。なお,直腸温はO群,平均皮膚温はY群がそれぞれ有意に高かった。以上の結果,汗腺と脈管系の加齢的低下は全身同等ではなく,脈管系の加齢的低下が汗腺のそれより先行し,日常の運動習慣が脈管系の加齢的低下を緩和する可能性が示唆された。実験(2):LDFの加齢的低下のメカニズムをm_<sw>とLDFの対応関係から検討した。すなわち,実験(1)と同一被験者に60分間の下肢温浴(42℃)を25℃・45%rh環境下で要求した。m_<sw>とLDFの対応関係は,被験者や部位に関わらず,暑熱暴露後順次,(a)m_<sw>なしにLDF増加,(b)LDFは変化せずm_<sw>の増加,(c)m_<sw>とLDFの比例的増加,と変化した。phase(a)のLDFの増加は,背,大腿phase(c)のm_<sw>とLDF間で求めた回帰直線の傾きは,背,前腕,大腿でO群が有意に低かった。phase(c)の傾きはO群の大腿部で日常歩行量と正の相関を示した。以上の結果,暑熱暴露時にみられた高齢者の低い皮膚血流量は,交感神経のtoneの低下が小さいこと,発汗神経由来の血管拡張物質に対する感受性が低いこと(または分泌される血液拡張物質が少ないこと)に起因し,これらの加齢的低下に身体部位差が存在し,日常の運動習慣がこれらの加齢的低下を緩和する可能性が示唆された。
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