研究概要 |
本研究の目的は,被検者に呈示時刻の予測が可能な刺激を呈示し,その予測に基づいて刺激に対する反応動作のための準備をさせておき,実際の刺激時刻を予測時刻から少しづつずらして被検者の予測を裏切ることによって,刺激に対する反射及び随意反応のパターンがどのように変化するかを記録し,対人スポーツ等において頻繁に経験される,「タイミングをはずされた場合」の動作の乱れのメカニズムを追究することである。 今回の研究では,肘関節を直角にして前腕を机と垂直に置いた被検者の手首に,重量負荷を繋いで電磁石で支えておき,短い音を1秒間隔で3回連続して与えた後,4回目に相当する時刻に電磁石を切り,音の代わりに手首を負荷によって牽引し,上腕二頭筋に筋伸張刺激を与えた。肘関節角度の保持を課題とし,3回目の音から手首の牽引刺激までの時間を0.2秒刻みで変化させ,筋伸張刺激によって上腕二頭筋に生じる伸張反射の諸成分,随意性筋放電,肘関節伸展量の変化を検討した結果,次のことが明かとなった。 (1)3回目の音から刺激までの時間が,3回の音の間隔と一致する場合に,肘関節伸展量は最小値を示し,それより短く,あるいは長くなるにつれて徐々に増大し,0.5秒以上短いか0.5秒以上長くなると,3回の音がない場合と等しい値を示した。 (2)肘関節角度に対応して,刺激に対して発現する筋放電の積分値は,3回目の音から刺激までの時間が3回の音の間隔と一致する場合に最大値を示し,それより短く,あるいは長くなるにつれて徐々に減少する傾向を示した。 (3)以上の結果から,刺激に対する予測の効果は予測された時刻の0.5秒前から0.5秒後までの約1秒間持続することが明かになった。
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