研究概要 |
本研究の目的は,戦後50年間の日本国土における製造工業の地域的展開を「企業システム」による「国土(空間)の組織化」,すなわち「地域のシステム」化であることを実証することにある。「企業システム」を把握する指標としては「株式の所有状況」に,「地域システム」の把握指標としては,本社・支社・工場・営業所・出張所等の事業所の企業内地位に,それぞれ着目した。具体的には企業の系譜,企業の系列をもとにいわゆる企業グループ(企業集団)を確認し,各時期(戦後処理期,経済発展期,高度成長期,安定成長期)をそれぞれ代表する年次の企業グループ傘下の各企業の有価証券報告書の解析を行った(もちろん,この解析の先行作業として,各時期におけるわが国の製造工業の地理的分布を市区郡単位で論じ,今日,「産業の空洞化」と呼ばれている現象が市区郡単位レベルでは既に1950年代前半から生起してきたことを知った)。その結果,企業グループあるいは系列なる企業個々の水平的な結合と,関連あるいは下請なる企業個々の垂直的な結合との「地域システム」化に果たす役割の異なることが明確になってきた。つまり,前者は,資金調達の安定化ならびに製品市場の全国化に伴う無用な競合の回避を介して,後者は,製造工程の分化・単純化を介して,それぞれ国土(空間)の組織化に機能しているのである。それは,「資本の増殖活動」の一環としての事業内容の転換あるいは多様化であったり,あるいは生産の場の新たな立地・移動,等々として,いわゆる企業内地位を得た事業所の地域的展開となって,あらわれている。たとえば,関西資本に強く依存してきた「川崎グループ」傘下の企業,関東資本に強く依存してきた「古河グループ」傘下の企業の,関東あるいは関西へ事業所の配置,更に一部の傘下企業相互の「合併」などは,まさしく上述の好例である。なお,戦後処理期の有価証券報告書の入手に手間取り,解析の遅れている部分もある。これらについては平成8年度内に必ず公表するものである。
|