研究概要 |
岩壁の凍結破壊とその結果としての落石の発生過程について,(1)亀裂を含む岩石試料の凍結膨脹を調べる室内実験,(2)岩壁表面に発達する節理の凍結膨脹を調べる野外観測,(3)融解期に岩壁から発生する落石の計測,の三側面から検討した.野外調査は赤石山脈のカ-ル壁および崩壊壁で行った.平成6年の5月〜6月と7年の4月〜6月にかけての融雪期に,計24回調査岩壁を訪れ,落石の分布・粒径・個数・移動軌跡および積雪の消耗量の調査を実施した.3地点に設置した無人観測システムからは,岩壁温度と亀裂変位に関する2年間の連続観測データを取得した.また,室内実験では,花崗岩試料に人工的に亀裂を作り,その中を満たす水の凍結膨脹を凍結速度を変数として測定した. 野外観測データは,冬の低温期と春の融解開始期にそれぞれ1回ずつ凍結膨脹が起こったことを示す.前者は岩盤表面の一時的な溶融後の再凍結時,後者は残雪底面からの融解水の節理への侵入とその再凍結時に発生しており,いずれも節理中の水分の重要性を示している.室内実験では,0〜-2℃における急激な凍結膨脹の発生が記録された.これは,閉鎖系にある亀裂が水で満たされる場合には,凍結が及ぶ深度付近までは亀裂の膨脹,すなわち岩壁の破壊が発生しうることを示しており,0℃をわずかに下回る温度条件下での節理の拡大するという融解期の野外観測結果と符合する. 季節的凍結層の形成・消耗期に岩盤表層部で生じた亀裂の拡大は,融解期らは落石を引き起こす原因となる.落石調査では,融解の進行とともに落石が増加する傾向が認められ,しかも落石発生のピークは岩盤の露出のピークよりも約10日遅れることが明らかになった.また,雪解け後は岩盤内部に融解が進行するとともに次第に落石径が増加した.熱伝導理論に基づく計算の結果,岩盤の季節的凍結層の融解が1〜2m程度に達したときに,落石が多発する傾向があることが示された.
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