研究概要 |
尾瀬ヶ原に代表される中部地方以北の多雪山地の泥炭地では,完新世後半(3〜4000年前以降)の沼沢化にともない,泥炭地が山地側の緩斜面へ拡大していることが多い.中部地方以北の多雪山地に比べて,標高が低く,降雪量も少ない中国山地において,同様な傾向が認められるかについて検討し,以下のような結果が得られた. 1.広島県北部の八幡湿原(標高800m)は,緩傾斜な谷底平野の源頭部付近に存在する.堆積速度は,約9000年前から約6000年前までが0.17mm/yr,約6000前以降現在まで0.95mm/yrとなり,大まかには,完新世後半の方が前半に比べて小さい.しかし,二葉マツ型花粉がやや深い層準から増加することから,3〜4000年前よりもかなり遅れて,堆積速度が増加した可能性が推定される.いずれにしても,耕地化などの人工改変の影響も考慮して,さらに検討が必要である. 2.島根県西部に沼原湿原(標高500m)は,単成火山である青野山に堰止められた,谷底平野の最上流部に分布する.泥炭地の拡大が可能な緩斜面が山脈の縁に存在するものの,ここでも,耕地化のため,泥炭地の拡大を確認することができなかった. 3.岡山県北部の細池湿原では,ケルミ-シュレンケ状の微地形が分布する縁辺部分では,1500〜2000年前以降,泥炭の堆積速度が急増している. 4.現段階においては,中国山地では,3〜4000年前頃より大きく遅れて,泥炭堆積が活発化した可能性が示唆される.この点は,中部地方以北の多雪山地における,3〜4000年前以降の堆積速度の変動との関わりを含めてさらに検討することが必要であろう.
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