本研究の目的である地域の伝統的町並み景観を、子どもの視点から美術教育的にとらえるために、新潟県上越市高田の雁木町並みをとりあげたわけであるが、単なるアーケードと異なる点が多々あり、それが不便ながらも地域性や風土性、そして伝統的生活や文化と深くかかわっていることが理解できた。そして、それらのことを子どもたちが、そこを歩いてその空間を体験することによって認識できるということが、非常に重要なことであることがわかった。 また、美術教育における環境教育の教材として地域の伝統的町並みがいかに有効性の高いものであり、加えて景観や風景など、今まで美術教育の学習内容に入ってこなかったものがこれからの美術教育の中で、必要なものとなることがまとめられた。平成元年度の学習指導要領の改訂によって加えられた「身近な環境のデザイン」という領域は、自分の教室や部屋などをどう変えるかというような内容に進むだけでなく、子どもたちが自分のまわりの伝統的環境とどうかかわり、何を学び、どう守り、伝えていくのか、そのような観点からも考えていかなければならないわけである。 雁木町並みのもつ意義は、美しい景観や伝統的なものの保存という観点ばかりでなく、共有空間についての地域住民の意識のあり方が、今後の環境教育や美術教育の基盤をつくるものと考えられる。 さらに、これらの内容は、美術教育ばかりでなく、教育全体としての取組みが必要となるわけであり、他教科との関連や、特別活動や教育活動全体との関わり、さらに社会教育や生涯学習との連帯も今後の研究課題として、研究が重ねられていくべきであろう。
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