研究概要 |
本研究の目的は,わが国の明治期における近代歴史教育の成立・展開過程を,準備期(明治5年〜13年),成立期(明治13年〜23年),確立期(明治23年〜33年),完成期(明治33年〜45年)の4期に時期区分を行い,各時期の歴史教育関係の文献収集に基づいて,各時期の歴史授業論の構造を系統的に解明していくことである。 本研究の成果として新たに得られた知見は,以下の3点である。 第1は,明治期を中心とした近代歴史授業論は,大きくみると,歴史授業論がまだ意識されず暗記注入の一斉教授が行われていた準備期,歴史授業構成を行う際の根拠となる目標論・内容構成論・教授方法論がばらばらではあるが主張され始める成立期,「教育的歴史」として人物を中心に道徳性を育成する歴史授業論が提唱される確立期,歴史学の成果と心理学・教育学の成果の両方を取り入れた本格的な歴史教育独自の「人物学習」として整備される完成期というように展開していることである。 第2は,近代歴史授業論の展開過程は,(1)近代国家を担う国民(臣民)の育成という目標を達成する歴史授業論の構築,(2)国民(臣民)の育成に必要な歴史認識と実践的資質を統一的に育成する歴史授業論の構築,(3)このような目標論・内容構成論に基づく歴史教育独自の教授方法論を備えた歴史授業論の構築,以上の3つの歴史的課題を克服していく過程であったととらえることができることである。 第3は,完成した近代歴史授業論の特質は「人物学習」であり,それは,目標論としては近代国家を担う国民(臣民)に必要な歴史確認と態度の統一的形成,内容構成論としては人物中心の内容構成,教授方法論としては人物の行為の共感的理解という歴史教育独自の教授方法からなっていたことである。
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