研究概要 |
福井県越前海岸地域を例として,海岸急斜面地域の災害のメカニズムを明らかにした.越前海岸には急崖斜面が発達している.海岸線から沖には岩礁がいくつか残っている.岩礁は海岸から約200m沖まで存在する.最も遠くに位置する岩礁は500m沖である.岩礁の高さは海抜10m以下であり,全体的には,縄文海進時の波食棚あるいは海食台を形成していた.玉川地域では,数千年(5〜7,000年)前の海水面は現在より約10m高いところに残っている.数千年前以降の海面低下により新期に波食棚が形成され始め,高さ10m分の旧段丘堆積物や岩盤を削りながら,陸側に向かって前進しつつある.その前進速度(海外線の後退速度)は約3cm/yである.海岸線の後退が自然災害の原因となっている.越前海岸の場合このような地質的環境を反映する自然災害としては下記のものが重要である.(1)海水面の低下によって,侵食基準面が下がり,そのため,河川の下刻が著しくなり,深い谷を作る.鉄砲水等の土石流が発生し易い.また,河川の下刻速度が斜面侵食速度より大きいため,河川の斜面では崩落や地滑りが発生し易い. (2)同様に,海岸斜面上に不安定にのっていた旧崩落性堆積物は斜面基部が洗い流されることによりゆっくりと下方移動を始めつつある.(3)現在の海岸線が数千年前の急崖に到達し始めたところでは,数千年間の風化により割れ目等が脆弱になっており,岩盤崩落を起こしている.(4)西落ちの断層が海岸に平行に通っているところでは,基部が細くなることにより,上盤側がゆっくりと海岸に向かって滑っている. こ研究については,平成6年度災害科学総合研究班中部地区シンポジュウムにて講演した.
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