研究概要 |
トリチウムは生体の遺伝情報物質の主要構成元素の同位体である。従って,トリチウムの生物影響を評価する際には,(イ)有機結合型トリチウムにより,遺伝的及び発癌などの身体的影響が効果的に誘発される可能性,さらには(ロ)食物連鎖などの環境中有機結合型トリチウムにより,遺伝情報物質への取り込みおよびその結果として被爆線量が増加する可能性を考慮する必要がある。我々は食物連鎖により,肝臓などの細胞核内およびDNAのトリチウム含量がトリチウム水摂取に比較して2.1〜4.6倍高いこと,そしてその結果として,有機結合型トリチウムは無機型トリチウム(トリチウム水)より数倍リスクが高いことを報告した。これらの結果は,マウス胚発生におけるトリチウム化アミノ酸の生物効果などの例外を除けば正しいことが確認された。すなわち,DNA結合型トリチウムのRBEはトリチウム水の約2倍である。 環境中から食物連鎖などにより生体に取り込まれたトリチウムの生物影響は,低濃度による低線量率効果のために低減される。DNA修復は低線量率効果の主要因とされているので,我々はDNA修復欠損細胞を使った生物効果のリスク評価を試みた。使用した細胞は放射線高感受性マウス遺伝病(severe combined imumdediciency : scid)および放射線高感受性ヒト遺伝病(Nijmegen Breakage Syndrome : NSB)である。これらの細胞の平均致死線量DoはscidおよびNBSでそれぞれ0.7Gyと0.6Ggで正常細胞の約2倍の高感受性を示した。これらの結果から,ICRD勧告に基づいた現在のトリチウムの年摂取限度ALI2.8×10^9Bqの約1/4程度が有機結合型トリチウムでは目安になると推定された。
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