研究概要 |
酵母の脂質合成に関与する酵素遺伝子のいくつかは(INO1,PSS,PEM1,PEM2,CKI,ACC1,FAS1,FAS2)イノシトール(Ino)とコリン(Cho)により協調的に発現が調節されている。本研究ではこのようなInoとChoの調節作用のメカニズムを解析するために分子生物学的及び遺伝生化学的手法を持ちいた。酵母に存在する2種類のイノシトールトランスポーター遺伝子(ITR1,ITR2)のうちITR1のみがInoとChoにより調節され、この発現の調節にはITR1遺伝子の5'上流域に存在する5'-TTCACATG-3'が重要であることを明らかにしていたが、今回ITR1遺伝子の発現を亢進させる遺伝子としてSCS1/INO2とDIE2遺伝子をクローニングし、後者の構造を解析した。この遺伝子には分子量61789の蛋白質がコードされた。野生株ではInoとChoが培地に存在するとInoとChoで調節される遺伝子群の発現が抑制されるが、SCS1/INO2かDIE2遺伝子を野生株に多コピー導入するとこの抑制が起こらなくなった。またCSE1とは異なるコリン感受性変異株の変異を抑制するものとして新たにSCS3遺伝子を単離し、その構造を解析した。この遺伝子には分子量42734の蛋白質がコードされていて、比較的トリプトファンに富んだ配列が存在した。この遺伝子の作用を解析したところ、既述の調節遺伝子とは異なりInoとChoで調節される遺伝子群の発現にはSCS3は直接関与しないことが判明した。種々の状況証拠から恐らくこの遺伝子はホスファチジルイノシトールから合成されるスフィンゴ糖脂質の合成に関与すると推定している。
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