毒素原性大腸菌の産生する耐熱性エンテロトキシン(ST)は人・家畜に急性の下痢を引き起こすペプチド毒素として知られている。STは小腸上皮細胞膜上の受容体蛋白質と結合することによりグアニル酸シクラーゼを活性化し、細胞内cGMP濃度を上昇させる。これによりプロテインキナーゼがcGMPとの結合により活性化され嚢胞性線維症遺伝子由来蛋白質をリン酸化しClイオンを細胞内より細胞外へ流出することにより腸管内への液体貯流を引き起こすと考えられている。ラット小腸よりSTの受容体蛋白質の精製を試みる過程で受容体蛋白質が単独で存在するのではなく蛋白質複合体として存在することを見出した。STによる情報伝達機構を解明する上で、STの受容体蛋白質を含む複合体が受容体蛋白質間のオリゴマーであるか或いは異なる蛋白質を含むオリゴマーであるかは重要な知見となる。本研究はSTの受容体蛋白質と複合体を形成する蛋白質の構造と機能を明らかにすることを目的としている。まず、蛍光標識基と受容体蛋白質に固定化するために利用可能な官能基をもち、かつ天然STに匹敵する受容体蛋白質への結合能を有するアナログの合成を行った。蛍光標識化STを用いて、ラット小腸より調製した膜画分へのSTの結合特性を調べた。その結果、ラット小腸からの膜画分にはSTと交換性の結合をする受容体蛋白質(Rex)と非交換性の結合をする受容体蛋白質(Rnex)が存在することが示唆された。Rnexは2種類の複合体(1)、(2)として存在し、(1)と(2)はRnexを含む共通の蛋白質複合体成分と各々異なる構成蛋白質とからなっていることが分かった。これらの蛋白質複合体成分のうち、共通の構成蛋白質について現在解析を進めている。また、RexとRnexが同じ複合体中に存在するのかどうか、そして、いづれがGC活性化に関係しているのかは情報伝達機構を解明する上に重要な問題である。この点についても現在研究を進めている。
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