(1)一酸化窒素合成酵素の高発現系の作製 大動脈血管上皮細胞より作製したcDNAライブラリーより、ヒト血管上皮細胞由来の一酸化窒素合成酵素ヘムドメインcDNAをクローニングした。大腸菌発現ベクターpKK233-2及びpETに挿入し一酸化窒素合成酵素ヘムドメイン発現ベクターを作製した。IPTGによる誘導によって大腸菌中での発現を行った結果、一酸化窒素合成酵素ヘムドメイン蛋白質と思われるバンドをSDS電気泳動上で確認した。しかし分光吸収スペクトルではシトクロムP450様の差スペクトルの検出は出来なかった。 当初計画した一酸化窒素合成酵素ヘムドメインの大腸菌を用いた発現では一酸化窒素合成酵素ヘムドメイン蛋白質の発現は見られるものの、発現した蛋白質にヘムがうまく挿入されない。当初の研究目的を遂行するためには、この問題点を克服しなければならない。現在、発現条件や発現系の再検討を行なっている。今後、酵母菌発現系を用いた一酸化窒素合成酵素ヘムドメイン蛋白質及び一酸化窒素合成酵素全体の発現を検討中である。 (2)パルスラジオリシス法を用いて、水和電子によるNADP+-アドレノドキシン還元酵素の還元課程を追跡した。この酵素のフラビン部位は水和電子により効率よく一電子還元され、セミキノンが生成した。それに対してNADP+-アドレノドキシン還元酵素とNAD+の複合体では、水和電子だけでなくCO2-、1-メチルニコチンアミドラジカルのような還元種はフラビンと直接反応せず、この酵素に結合しているNADP+をまず還元しNADP・を生成する。その後6.1x104s-1の速度でフラビンへ分子内電子移動する事が分かった。またアドレノドキシンと還元酵素との複合体では水和電子による還元が見られなかったのに対して、アドレノドキシン、還元酵素、NADP+による三者複合体では酵素に結合したNADP・から還元酵素のフラビン及びアドレノドキシンの非ヘム鉄の還元が見られた。以上の結果より、アドレノドキシンの非ヘム鉄近傍に還元酵素のフラビンおよびNADP+のニコチンアミド基が存在していることが示唆された。
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