研究概要 |
補酵素結合部位を弧状に取り巻きPLPと水素結合する残基間のネットワーク(PLP-N1,Asp222,His143,Thr139,His189,Ser136,His193,Asn194,Tyr225,PLP-03')の一部を構成するHisクラスターが共同して活性域内荷電状態の安定性を保ち、シッフ塩基の反応性を増加している可能性を明らかにするため、His143,His189,His193をそれぞれ、最も構造的に近いが荷電を持たないGlnに、あるいはAlaに置換した変異酵素を作成し、変異酵素の諸性質を野性型酵素と比較検討した。 1.変異酵素の動力学的性質を野性型酵素のそれと比較したところ、基質に対する親和性を若干減少していたが、反応速度に変化は見られず、触媒活性に大きな差異は観察されなかった。 2.変異酵素の吸収およびCDスペクトルを解析し、補酵素PLP結合に関する情報を得た。His189をGlnに置換した酵素ではシッフ塩基のpK値が大きく上昇していたが、他の変異体やAla置換体ではシッフ塩基の著名な状態変化は認められなかった 3.変異酵素のNMRスペクトルを解析し、野性型酵素におけるHis189ピークの帰属を決定した。His189に由来するシグナルは、pHによる化学シフト変化をほとんど示さなかった。His143Gln,His193Gln変異酵素におけるHis189の化学シフト位置が野生型酵素のそれと異なることから、3つのHis残基間に相互作用があると考えられた。 4.X線による変異酵素の解析では、His189と同じ空間をGln189が占めており、酵素全体構造には変化がなかった。しかし、Gln189で認められたLys258(NZ)-PLP(C4')結合への置換による影響がAla189置換体では認められなかったことは、野生型酵素でHis189側鎖と近接しているHis193-Asn194ペプチド骨格とGln189側鎖間に変異に伴う密接な相互作用により、His189Glnでシッフ塩基の状態変化が生じたことを示している。
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