研究概要 |
近年、培養細胞は勿論、動物個体の脳内にさえ直接、外来の遺伝子を導入・発現できる分子神経生物学的アプローチが神経科学研究において、また更に神経疾患の遺伝子治療用技術としても望まれ、研究され、また試みられつつある。単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus 1,HSV-1、ここではHSVと略す)は上述の目的の神経親和性ウイルスベクターとしての有力な候補の一つとして期待されている。まず、本ウイルスに由来する欠損型非増殖性HSVベクター発現系の一般的な検討を行い、方法論的に改良、発展させることを進め、そのプロトコールを成書にまとめた。また、本発現系を用いて、グルタミン酸受容体チャネル(GluR)の解析を更に進めた。NMDA型グルタミン酸受容体チャネルは、2種(ε,ζ)のサブユニットファミリーにより構成され、εサブユニットの分子的多様性がその機能的多様性の基盤を担っている。本研究ではCMVプロモーターの下流にζ1,ε1,ε2各サブユニットcDNAを組み込んだHSVクローンを構築・解析した。すなわち、各HSVクローンを感染させたRabbit skin cellについて、RT-PCR、ドットブロット及びウェスタンブロット解析により、その高い発現が確認でき、発現した各サブユニットタンパクを分子的、機能的に解析するとともに、ζ1とε1又はε2サブユニットとを組み合わせて、in vivoでの感染実験を進めつつある。また、ζ1サブユニットやAMPA型GluRα1サブユニットタンパク分子の種々の部位の欠損変異体や部位特異的変異体を発現するバキュロウイルスクローンを構築して、各リガンドの結合領域の解析を進めた。また、遺伝子治療用ベクターとしての可能性も視野に入れ、インターフェロンγ、インターロイキン2や神経細胞死に阻害的に機能している未知遺伝子のHSVクローンを構築して、in vitro、in vivoでの解析を進めている。
|