研究概要 |
蛋白質の立体構造安定性の定量的尺度は,天然(N)状態と変性(D)状態の自由エネルギー差ΔG_dである。従ってΔG_dに関与する因子を特定して,その寄与を評価するためには,N状態だけでなくD状態の構造情報が不可欠である。多くの構造プローブを用いた研究から,天然,完全変性(U)両状態の間にモルテン・グロビュル(MG)などの中間状態が存在し,D状態の構造は極めて多様であることが明らかにされた。本質的に多コンホメーション状態である非天然状態の研究において分光学的測定法とは相補的に,分子のグローバルな構造情報を与える溶液X線散乱法は有力な研究法であるが,それだけでは構造を特定できない。本研究はこの点を補完する方法を開発し,それを非天然状態の蛋白質の構造解析に適用するものである。具体的には, (1)極性基の水和と,ペプチド鎖の内部回転角の確率分布を考慮して,U状態鎖のコンホメーションを計算機内に生成させる方法を確立した。 (2)(1)の手法を拡張して,N状態と同じ構造をもつ部分と解けてU状態と同様の構造をもつセグメントからなる非天然状態のmultipartite(MP)構造モデルのコンホメーションを生成させる方法を開発した。 (3)溶媒を連続媒質として扱う近似の下で,溶媒の寄与を考慮してX線散乱プロフィルを計算する新しいアルゴリズム-表面積分法-を考案しこれに基づく溶液X線散乱シミュレーションプログラムを開発した。 (4)(3)を数種の天然蛋白質とU状態鎖に適用し,その動作と有効性を確認すると共に,溶媒効果の精密な取り込みの重要性を明らかにした。 (5)MG状態の構造モデルとして(MP)モデルを3種の蛋白質に適用し,実測と比較した。その結果何れも概ね,特にシトクロムcについては良く,MPモデルで説明できるが,α-ラクトアルブミンとミオグロビンでは実測と有意の差が見られ,モデルの改良の必要性が示唆された。
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