研究概要 |
蛋白質の各々の特異な機能はその立体構造の特徴に依存して発揮される。その立体構造の安定化機構の解明は蛋白質研究の基礎的で重要な課題である。本研究では、立体構造の安定化に果たす疎水性残基の役割を明らかにするために、ヒト・リゾチーム変異型、Ile→Val(5箇所:23,56,59,89と106位)とVal→Ala(9箇所:2,74,93,99,100,110,121,125と130位)の14種の変異型を作製し、それらの変異型蛋白質の熱測定とX線結晶解析を行なった。14種の変異型全ての熱変性の熱力学的パラメーターを高性能断熱型示差走査熱量計(DASM4)を用いて求めた。Ile→Val変異型は同じ性質の置換であったが、変性のギブスエネルギーの差は0.4から1.2kcal/molの変化を示した。また、変性のエンタルピー変化は0.6から-6.0kcal/molの変化を示した。これらの結果は同じ性質の置換であっても置換部位構造上の特徴によって種々に安定性へ寄与することを示した。また、大きな変性のエンタルピーの変化はエントロピー項によって相殺され、安定性の変化の程度を低めるのに役立っている。Val→Ala変異型も同じ傾向の結果を示した。5種のIle→Val変異型の構造解析の結果は、置換によってその部位での少しの変化は見られたが、全体の構造の変化はほとんどないことを示した。特に特徴的なのは、59位変異型においては置換部位に水分子が導入されたことである。全体を総括すると、変異型は、置換での疎水性相互作用による安定性の低下を構造の微調整によって安定性を部分的に補っていることを示した。これらの結果は蛋白質立体構造の安定化に果たす疎水性残基の役割に関する基礎的で重要な知見である。
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