研究概要 |
1.集団健診受診者の中から無作為に選んだ42歳から73歳までの110人(61±8(SD)歳,女性87人,男性23人)について、血漿及び赤血球の血小板活性化因子(PAF)アセチルヒドロラーゼ活性を同時に測定したところ、5人(4.5%,全員女性)に、血漿酵素活性の欠損が認められた。この出現頻度は、既報の3.9%と近似していた。 2.血漿酵素活性非欠損群(105人,61±8歳)、欠損群(5人,63±8歳)両群間に、血圧値、尿検査成績、血球数、血液生化学検査の有意差はなかった。また、いずれの血漿酵素活性欠損者にもPAFの生理作用と直接結びつくようなアレルギーやショック症状などの既往を認めず、両群間に疾病罹患率の差もなかった。 3.血漿酵素活性欠損者に赤血球酵素活性の欠損はなく、その赤血球中の同族酵素活性は非欠損者と同水準であった。血漿酵素活性欠損者の非溶血赤血球を20mmol/lリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)に浮遊させて、基質のPAF濃度80μmol/lのときの細胞外PAF代謝能力について検討した。5%赤血球浮遊液では、同じ細胞濃度の溶血後の赤血球の84%の活性を示した。また、同じPAF濃度において、0.5%非溶血赤血球浮遊液の細胞外PAF代謝活性は、溶血赤血球の活性の88%であり、PAF濃度を1μmol/lに下げても4%の活性を示した。 4.これらの結果は、赤血球に存在するPAFアセチルヒドロラーゼが、血漿酵素活性欠損者の臓器、組織の微小循環において、赤血球が局所的に希薄でヘマトクリットが低下した状態でさえ、全血中のPAF代謝活性を正常に保ち、PAFが介在する病態の形成を抑制している可能性のあることを示唆している。 5.今後、対象者の規模を1000人程度にまで拡大し、血漿PAFアセチルヒドロラーゼ活性欠損と病態との関連についてより詳細な検討を行うことにより、PAF代謝に関する赤血球同族酵素の意義を明らかにしていく。
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