src tyrosine kinaseの神経細胞の再生反応における役割を明らかにする目的で、迷走神経・舌下神経という変性・再生反応をそれぞれ示す神経系を使い、軸索切断後のSrcの変化を蛋白およびmRNAレベルで検索した。1.免疫組織化学的検索では、tyrosine kinaseの反応産物であるphosphotyrosineに対する抗体を用いた検索より、両神経核とも軸索傷害後に神経細胞の膜に強い陽性反応を示すようになり、tyrosine kinaseの活性上昇の生じることが示された。神経細胞の栄養因子として働きそのリセプターがSrcと会合するplatelet derived srowth factor(PDGF)とそのリセプターの検索により、迷走神経核のみで神経細胞死に先行してPDGFの消失が見られた。しかしPDGFリセプターに関しては変化を示さなかったこのことから、神経細胞の再生反応にPDGFなどの神経栄養因子の作用が重要であることが示された。次いでSrcに対するpolyclonal抗体と、SrcのSH3部分に対するmonoclonal抗体を用いて検索した。その結果、polyclonal抗体で認識されるSrc自身は両神経核の対照側、処置側ともに蛋白の存在が認められ、また免疫反応にも強弱の差は明らかではなかった。一方、SH3に対するmonoclonal抗体で検索すると、舌下神経核の切断側のみに陽性反応が認められ、舌下神経核の対照側や迷走神経核の対照・切断側ともに反応は認められなかった。これらの結果とSrcの活性化機構とを合わせて考えれると、Srcの活性化が生じる舌下神経核の神経細胞は再生が生じ、活性化の生じない迷走神経核では神経細胞が変性すると考えられた。2.処理後のラットより神経核を実体顕微鏡下に採取し、Western blottingを行った。その結果、両神経核とも切断によっては蛋白量には有意な変化が見られなかった。3.In situ hybridizationはデータベースとしてGenetyx CDを使い、マウスの配列に従って45merのoigonucleotide probeを用いて検索したが、結果が極めて不安定で信頼できる結論は得られなかった。しかし、最近のデータでは以前と異なる配列が記載されており、我々が当初使った配列にはイントロン部分が存在していたことがわかった。現在までラットのSrcのcDNAは報告されておらず、我々はマウスとのhomologyを利用してin situ hybridization用のprobeを作成しつつ、ラットの全配列を決定すべく仕事を継続している。
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