研究概要 |
パーキンソン病が黒質ドーパミンニューロンの変性により発症することはよく知られている。近年パーキンソン病の誘発物質として発見されたN-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)を用いた研究が広く進められ、MPTPの黒質ドーパミンニューロンに対する神経毒性の発現機序がしだいに解明されてきた。本研究では、黒質ドーパミンニューロンが脚橋被蓋核からコリン作働性入力を受けているという事実に基づき、黒質へのコリン作働性入力がMPTPのドーパミン神経毒性の発現に如何に関与しているかということを形態学的に検討した。 現在までに以下の結果が得られた。 (1)MPTPの活性代謝産物であるMPP^+を黒質に注入したラットでは、ドーパミンの合成酵素であるチロシン水酸化酵素に対して免疫反応性を示す黒質ニューロンの数が激減した。このような毒性効果はMPP^+の投与量に依存していた。 (2)興奮性アミノ酸のひとつであるイボテン酸により脚橋被蓋核を化学的に破壊したラットでMPP^+を黒質内注入すると、脚橋被蓋核に生理的食塩水を注入した対照群と比較し、チロシン水酸化酵素免疫陽性を示す黒質ニューロンの数が有意に多かった。このような現象は脚橋被蓋核の破壊程度に依存していた。 以上の結果から、脚橋被蓋核から黒質へのコリン作働性入力を除去することによりMPTPのドーパミン神経毒性が抑制されることが明らかになった。アセチルコリンレセプターには、ニコチン様レセプターとムスカリン様レセプターの2種類があり、そのいずれもが黒質ドーパミンニューロンに存在することが報告されている。今後はこれら2種類のアセチルコリンレセプターに作用するagonistやantagonistを用いて、MPTPの黒質ドーパミンニューロンに対する神経毒性の変化を解析したい。
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