研究概要 |
1.マウス神経芽腫細胞(NS-20Y)を血清を除いた培地中で培養したときにみられる神経突起の顕著な伸展に対する、グルコシルセラミド合成酵素阻害剤PDMP (1-phenyl-2-decanoylamino-3-morpholino-1-propanol)およびスフィンゴシンの抑制効果の機序を明らかにする目的で、神経突起の伸展に対する各種プロテインキナーゼ阻害剤、カルモジュリン阻害剤の効果を検討した。その結果、カルモジュリン阻害剤であるW-7,calmidazolium, trifluoperazineは、いずれも神経突起の伸展をその濃度に依存して抑制した。一方、プロテインキナーゼ阻害剤H-7,H-89,KN-62,genisteinなどの存在下でも神経突起の伸展が影響を受けなかったことから、(1)NS-20Y細胞における神経突起伸展が、カルモジュリンを介した機構により調節されていること、(2)PDMPやスフィンゴシンが示す神経突起伸展に対する抑制効果は、カルモジュリンに依存する経路による可能性があることが示唆された。 2.マウス神経芽腫細胞(NS-20Y)の細胞周期に対して、糖脂質合成酵素阻害剤PDMPおよび種々のスフィンゴ脂質が及ぼす効果をフローサイトメトリーにより検討した。PDMPは細胞のスフィンゴ糖脂質含量を著しく減少させるとともに、細胞の増殖を抑制するが、NS-20Y細胞へのPDMPの添加によりS期細胞の減少とG0/G1期細胞の増加が明らかに認められ、G2/M期の細胞には有意な変化が無かった。一方、スフィンゴシン、スフィンガニン、スフィンゴシン-1ーリン酸では、細胞周期に変化はみられず、短鎖セラミド、スフィンゴシルホスホコリンも細胞周期に影響を与えなかった。これらの結果から、PDMPによる増殖の抑制はG0/G1期での細胞周期の停止によるものであると考えられるが、これはセラミド、スフィンゴシンなどの増加によって起こるとは考えにくく、スフィンゴ糖脂質の減少が重要である可能性が示唆された。
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