研究概要 |
炎症部位では痛覚過敏が生じる.痛み受容器(侵害受容器)の反応の感作がその一因であると考えられている.この感作機構を解明するため,(1)神経生理学的実験と対応できる時間軸において軽度熱傷部位で炎症メディエーターを測定し,熱傷時の感作に関わるメディエーターを明らかにする,(2)種々の炎症メディエーターのなかでもヒスタミンの痛み受容器(ポリモーダル受容器(PMR)に対する効果を明らかにし,受容体タイプ,感作に関わる細胞内情報伝達系を明らかにすることを目的とした.(1)ラット背部に気嚢を作成し,麻酔下で気嚢皮膚を55℃または65℃の湯に30秒間浸けた後,20分間隔で気嚢を洗浄し,洗滌液中に出現するブラジキニン(BK)をELISA法で測定した.BKは20分後にすでに増大し,40分後に最大値に達し,その後減少する傾向を示した.(2)イヌ精巣-上精巣神経標本を用いてPMRの反応を調べた.ヒスタミンは10μM以上の濃度でPMRの熱反応を濃度依存的に増強し,この効果はH1受容体を介していた.H1受容体が活性化すると報告されているDAG-proteinkinase C系の関与についてphorbol ester(phorbol 12,13-dibutyrate(PDBu))をもちいて調べた.PDBuは0.1μM以上の濃度で一部PMRに放電を誘発した.熱反応は0.01μM以上の濃度で濃度依存的に増強された.PDBuの熱反応増強効果はprotein kinase Cの阻害薬であるstaurosporine存在下で減弱したことより,protein kinase Cの活性化により熱反応が増強されることが明らかとなった.一方,BK反応はPDBu0.1μMの5分間前投与により熱反応の場合とは逆に抑制されたが,同時投与したところ促進が観察された.また,BK0.01μMに対する放電反応は,staurosporineの投与により減弱した.これらの結果よりPMRのBK反応にもprotein kinase Cの活性化が関与しているが,抑制をうける系も介在していると考えられる.
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