研究概要 |
これまでの我々の研究によって頭頂間溝外側壁の前方領域(AIP領域)が操作運動のコントロールに重要な役割を果たしていることがわかってきた.抑制性伝達物質GABAのアゴニストであるムシモールを微量注入して一過性に頭頂間溝領域の機能をブロックすると,AIP領域への注入では手の構えの準備動作ができなくなったのに対して,それより後方部への注入では手の構えに異常はないが,正確な到達運動ができなくなった.この結果は,頭頂間溝内の異なる領域で操作運動と到達運動が制御されている可能性を示している.これまでに,この領域から合計64個の到達運動ニューロンを記録した,これらのニューロンは,サルが手元のキ-から手を離し目標に到達するまでの間に一過性の強い活動を示した.このうち4割のニューロンはサルが手を伸ばすときであれば,その後の操作運動の種類のいかんにかからず活動がある,操作運動に非選択的なニューロンであったが,6割のニューロンではある操作運動をする前の到達運動だけで活動する,操作運動に選択的なニューロンであった.到達運動ニューロンも操作運動ニューロンと同様に,「視覚優位型」「視覚・運動型」「運動優位型」に分類できたが,操作運動に選択的なニューロンでは、非選択的なニューロンと比べて,「視覚優位型」のニューロンの割合が多かった.このことは操作運動に選択的な到達運動ニューロンは操作運動そのものよりも,手の構えの準備動作に関与している可能性が考えられる.64個の到達運動ニューロンの内,24個のニューロンで運動方向選択性を調べたが,ほとんど(19/24)のニューロンは選択性がなく,選択性を示すニューロンも鋭い選択性を持つニューロンはなかった.さらに,視線の方向の影響を調べたところ,注視点に向かって手を伸ばす時により強い活動を示すニューロンが見つかった.また,注視点に手を静かにおかせて注視させると強く活動するが,手を隠すと見えなくすると活動がなくなるニューロンもあった。これらの結果はこのタイプの到達運動ニューロンが中心視野での指先の正確な位置のコントロールに関与している可能性を示している.
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