研究概要 |
1.用いた細胞は、Tyzzer菌RT株の感染・増殖様式によって3群に分けられた;A:高侵入率(70%以上)で感染し、菌の増殖に伴って細胞溶解を起こし感染性菌体が放出される[ラット肝癌由来H4IIEC3(以下H4)およびMH_1C_1,マウス初代培養肝細胞(MH)]。B:高侵入率だが、細胞溶解を起こさない[ラット正常肝由来BRL、マウス同NMuLi]。C:低侵入率(60%以下)で、増殖が認められない[マウス線維芽細胞BALB/3T3-A31および3T3 Swiss albino、ラット同3Y1]。 増殖に適したA、B群の培養細胞における感染価を比較したところ、MH_1C_1およびMHはほぼ同等で、H4ではこれらの約3.5倍だったが、BRLでは約1/10と低かった。以上の結果から、Tyzzer菌の宿主細胞への親和性は、付着・侵入・増殖の各段階で別々の要因によって規定されていることが示唆された。 2.EGFで増殖・分裂を誘導したマウス初代培養肝細胞では、Tyzzer菌の親和性が低下する傾向がみられたが、再現性に問題があり、今後の課題として残った。 3.MH_1C_1、MH細胞をミクロフィラメントの重合阻害剤であるサイトカラシンDで処理したところ、Tyzzer菌の感染価が亢進(MH_1C_1>MH)した。さらに、MHでは侵入率の上昇も認められた。これに対して、H4細胞では、対照と同等かやや抑制傾向にあった。これまでは、ミクロフィラメントの重合阻害により、大多数の細胞侵入性細菌・原虫の侵入は抑制されており、例外として影響を受けない細菌の報告がわずかにあるにとどまっていた。今回の結果は、Tyzzer菌の宿主細胞への侵入が、細胞骨格系の阻害によって亢進するという、まったく逆の現象であり、新しい細胞侵入のメカニズムの可能性を示唆するものとして注目されよう。
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