人間が直立姿勢を維持するとき、人体の重心位置は常に動揺している。この重心動揺を測定し分析すれば、姿勢制御のメカニズムを知ると共に、平衡機能障害を知ることができる。しかし現在は重心の鉛直落下点の動揺を計測し、これを重心動揺と呼んでおり、正確な人体の重心動揺を表わしていない。したがって重心高さ(これを縦重心と名づけた)を計測することが必要である。本研究は人体を力学における実体振子と見なし、縦重心を未知数として方程式を作成し、質量を変化させた場合の周期の測定データを用いてこの式を解くことにより縦重心を求める方法を開発した。 本研究ではまず被験者(20代前半の男子5名)の身長、体重を正確に計測した後、平面重心計測装置(オートスタビロメータ)を用い、被験者の平面重心動揺を計測した。つづいて被験者を水平にし、モーメントのつりあいから仰臥位縦重心を計測した。つぎに被験者を揺動板にのせ、上から釣り、微小振動させ、その周期を測定し、つづいて付加質量を加え、同様の計測を行い、この周期データT_1、T_2を用いて、縦重心を含む運動方程式を解き、縦重心を求めた。この結果、人体の縦重心は、仰臥位姿勢では足底から上部方向へ身長の56%前後にあるが、直立時には52%前後になり、4%程度下がることがわかった。また縦重心と身長、体重との相関を調べた。さらに平面重心動揺と縦重心を考慮した平面重心動揺の違いを求め、振り子式縦重心計測法の有用性を示した。
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