研究概要 |
長期植え込み用ヒト血管内皮細胞播種型人工血管の開発を目的として,ヒト血管内皮細胞と人工材料との親和性を,特に抗血栓性の観点からin vitroで基礎的研究を行なった。正常な血管内皮細胞は血小板凝集阻止および血液凝固阻止物質を合成,分泌し抗血栓性を保つ。さらに,血栓溶解能を持ち,組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)はその代表である。しかし,刺激によっては向凝固性に傾くことが知られている。 ELISAおよび日立蛍光分光光度計F-2000型(平成6年度交付)を用いてtPAについて検討した。血管内皮細胞から遊離するtPA(tPA抗原として測定)は継代数か比較的高くても,持続的に認められた。培養4日間では,一般に初期の1日目の方がtPA分泌量が高かった。また培養液中のtPA活性は殆んど検出できなかったが,これは恐らく,疎外タンパク質であるPA1-IとtPAが共に遊離し,複合体を形成するためと考えられる。 血管内皮細胞を播種する材料および細胞外マトリックスタンパク質と培養液のtPAとPAI-1比を検討した。例えば,ガラス上では血管内皮細胞の培養は悪くなかったが,細胞接着タンパク質を介する場合に較べ一般にtPAとPAI-1比は低値であった。これは血栓溶解能の低下を意味し,ガラス面の培養が血管内皮細胞を刺激して,向凝固性にすると考えられる。 結局,血管内皮細胞による血栓溶解作用にも,人工材料および細胞外マトリックスタンパク質の影響が認められた。
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