研究概要 |
まず,生体軟組織中の音波を数値解析するため、その方法として蛙飛び差分法を選んだ。この手法は,陽的な定式化が可能,式がシンプル,境界条件の設定が簡単などの特徴を有し,時間領域の解析に向いている。蛙飛び差分法の固体内弾性波への適用は,著者が最初である。 次いで,生体軟組織の横波弾性波,弾性表面波の発生・伝播を,数値解析により予測した。代表的なオーダーの弾性定数,減衰率を選んで解析した。その結果,数10kHzで縦波に近い伝播特性があると確認した。 しかし、生体軟組織の媒質定数は,周波数分散性がある。そこで,実験による確認を行った。実験は,ゼラチンゲルを対象とした。バイモルフ振動子をゼラチンゲルの自由表面に斜めに挿入し,測定物の表面を励振したとき発生する表面波の伝播速度と減衰定数をレーザードップラー振動計で測定した。100[Hz]から1[kHz]程度の周波数範囲で,速度は1〜3[m/s],減衰定数は0.1[mm^<-1>]程度であった。また,観測波形には速度分散性,非線形性が見られた。数値解析では数10[kHz]付近で計算したが,その周波数では信号が微弱で正確に観測はできなかった。 次いで,超音波診断装置のシミュレーションを試みた。同じ蛙飛び差分法を使い,生体内の弾性波と診断装置とを一緒に解析できれば,有効と考える。ここまで,圧電体で作られた探触子の応答を解析するプログラムを完成させた。 更に,超音波顕微鏡のシミュレーションを行うプログラムの作製も行った。生体組織は,その不均一性,非線形性等により,正確な媒質定数が把握できないのが現状である。その点,計測スポットの小さい超音波顕微鏡は,精度よく測定できる可能性がある。しかし,解析的扱いでは,測定量の正確な考察は難しいと考える。そこで,本研究では、集束超音波が固体試料から反射する様子を時間軸上で数値解析するプログラムを作製した。
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