本研究の目的は、プラトンのテクネ-概念を明確にし、それが彼の哲学、とりわけそのエピステモロジーに与えた影響を明らかにすることにあった。そのために、プラトン初期の個々の対話篇におけるテクネ-・アナロジーの用法を再検討し、その成果をもとにプラトンのテクネ-概念の再検討を行い、その特色を明らかにする作業を行った。そして、そのようなテクネ-概念を知識モデルとすることによって、初期プラトン哲学解釈上のその他の諸問題に対して何らかの解決の糸口を見出すことを模索した。 以上の作業によって得られた知見は次のようなものである。すなわち、テクネ-・アナロジーの議論において、テクネ-概念は知(ソフィア・エピステ-メ-)のモデルとして機能している。しかし、そのパラレリズムは、従来指摘されてきたような単なる生産性や容観性、あるいは体系性といった点にのみあるのではない。むしろ、テクネ-・アナロジーが重要な光を当てているのは、知識とはそれを持つ人間の外部にいわば情報として成立するものではなく、むしろ、行為者の内部に形成される構造化された信念体系そのものであり、行為者の意思や欲求までも規定して行くような、より豊かな概念だという事実である。
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