本年度の研究においては、敬虔主義の基本的文献・資料の収集およびその整理に重点を置いた。本格的な分析は来年度以降になる。 16世紀に始まるドイツの中世的世界像からの自立は、国民経済の基盤としての経済的自立化と中世的統治構造およびその思想の動揺とによって促進された。とりわけ、ルターの宗教改革に起源を持つ新たな思想は、近世ドイツを分析するさいばかりではなく、近世以降の歴史的発展を展望するさいにの無視できない要素になっている。宗教改革の精神は、領邦制成立とともに形骸化し、それと平行して、ルター主義教会の体制化する。こうしたルター主義の不徹底さに対抗して生まれたのがドイツ敬虔主義である。なかでもヴュルテンベルクの敬虔主義は、信仰義認論に基づく個人主義を促進し、社会的には平等を強調した点において、著しい特徴を持っている。 今年度の作業を通して、ヴュルテンベルクの敬虔主義の初期の担い手の多くは、医師、化学者であり、その供鳴板となった人々は、都市の中産階級であることが判明した。つまり、敬虔主義は一定程度の教養を持つ知識人たち、自立的な市民層によって担われた。そして彼らは、体制の中にありながら、完全には体制に同調していない人々であった。彼らの活動は、学校を設立し、そこで教育活動を通じて民衆の啓蒙を行い、独自のユートピア思想の実現を目指した。 なお、個々の啓蒙主義者の内面性、彼らの社会思想の特徴、また彼らの思想的遺産が西南ドイツに与えた影響の分析については、今後の研究課題としたい。
|