今年度は、「現代美術の評価と価値-ベルリンの壁崩壊以降-」と題して、多様化する価値観の変遷の中で、芸術がどのような運命に置かれているのかを探る目的で研究を進めた。具体的には、現代美術を代表する作家の一人である、工藤哲巳の作品研究を通じてまず考察を行い、その成果は(1)ポーランド全国美学大会における口頭発表と現地研究者との討論(2)カタログ『工藤哲巳回顧展』中に、論文「工藤哲巳の戦略-不可能性の哲学、或いは哲学の不可能性」執筆(3)ポーランドでの口頭発表に基づき、ヤギェウォ大学編集の報告書に、論文「Tetsumi Kudo i japonska awangarda(工藤哲巳と日本の前衛)」掲載という形で発表した。またポーランド現代美術の調査を現地にて行い、国内の作品調査も併せて進めた。現代美術に関係の深い展覧会カタログや美学、美術史学の分野における優れた学術論文、著作も入手し、貴重な資料として活用している。今後の研究の方向としては、次の二つが考えられる。即ち;一つは歴史的見地に立って、現代美術の流れを史的事実を検証しつつ分析する方向。もう一つは、哲学的な視点から、価値論及び存在論の研究を行うと同時に、ポストモダン、ニュー・アート・ヒストリーやフェミニズムといった立場からの美的事象の解明を目指すものである。これらの展望をふまえた上で更に考察を深め、次年度にはポーランド全国美学大会への寄稿及び国内の美学会での口頭発表を予定している。
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