研究概要 |
本研究は,人間が傾きが異なる線分を一目で識別するときの情報処理過程を,図地非対称性の現象を手掛かりにして,数理モデルと心理実験を用いて検討することを目的としている.ここで検討の対象とした図地非対称性の現象は,斜め線分が図とな垂直線分が地となるときの方が,その逆よりも,検出成績が良くなることである.ここで興味深いことは,視覚系の処理密度が悪い特徴を図(検出の標的)とした方がむしろ成績が向上することである.この現象を説明するために,線分間の傾きの異同を基本単位とし,ベイズ推定を統合規則とする情報処理過程を考え,図地分離や検出の情報処理に対応する数理モデルを構成した.そして,その数理モデルから図地非対称性を導くことができることを数学的に証明した.次に,この数理モデルの妥当性を心理実験を用いて検討し,まず,もとの図地非対称性の現象が再現できることを示し,この数理モデルが現象を説明できることを定量的に証明した(投稿中).次に,背景に雑音が混入し地が斉一でなくなったときに生じる検出力の系統的低下の問題や,単一線分だけでなくパターン全体が分割されるときの問題に対して,この数理モデルから導かれる予測が,実際に観測されることを実験的に示した.また,一目で識別することとは視覚情報処理の並列性の機能とその限界の問題であるので,並列情報処理の計算理論を構築し,人間の視覚系は処理の局所性という観点において並列計算機と同一視しうるという結論を得た(印刷中).
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