脳における視覚情報処理は、視覚次元によって異なる処理系が使われていることが知られている。色や形は視覚野から側頭連合野にいたる処理系に、位置や動きは頭頂連合野にいたる処理系にその処理は担われていると言われる。感覚連合野で処理された視覚情報は、前頭連合系にも送られる。解剖学的知見によると、側頭葉からは前頭葉野の中の主溝より下側のブロードマンの12野に、頭頂葉からは同じく弓状溝の周辺の8野に投射がみられる。今回の研究では、2頭のニホンザルを使って、複合視覚刺激の色の次元に注目してgo-nogo反応を行う場合のフィールドポテンシャルと、動きの方向に注目して、go-nogo反応を行う場合のフィールドポテンシャルを、前頭前野の様々な場所においたエルジロイ電極から記録し比較を行った。その結果、次の4点が明らかになった。(1)手かがり刺激に対する応答は、12野のほうが8野より大きい。(2)それぞれの領野内で比較すると、12野ではサルが色次元に注目している場合のほうが動き次元に注目している場合より手がかり刺激に対する応答は大きく、8野ではその逆の傾向が見られた。(3)12野ではgo刺激に対する応答の方がnogo刺激に対する応答よりも大きかったが、8野ではそのような傾向は見られなかった。(4)12野、8野ともに記録半球とは反対側視野に呈示された刺激の方が同側視野に呈示された刺激より大きな電位を誘発したが、その傾向は12野のほうが顕著であった。これらの結果は、行動的意味の処理に関して前頭前野内に機能的分化が見られ、視覚情報のモジュール的処理は刺激の行動的意味の処理を行う前頭前野でも一部保持されているということを示唆する。
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