本研究は、防響室内に着席した被験者にさまざまな方向から音刺激を提示し、精神物理学的手法を用いて音高の主観的等価点や上下の弁別閾を測定することによって、音高知覚における空間誤差に関する知見を収集することを目的として行われた。 実験は極限法を用い、標準刺激を880.0(Hz)の純音、比較刺激を871.7〜888.4(Hz)の純音とした。いずれの試行においても、被験者には標準刺激→比較刺激の順で2音を繰り返し(最高15回)提示したが、上昇系列および下降系列のそれぞれにおいて、2.34(cent)のステップで比較刺激の音高が上昇あるいは下降するように設定した。被験者の前面には、正面に1台とその上下左右に1台ずつのスピーカー(被験者からの距離は130cm、中心からの角度は24.8°)が設置されており、各試行により、標準刺激および比較刺激を2音とも同一スピーカーから提示する条件や、2音を中心と周辺のスピーカーから提示する条件を設定した。被験者は2音を聴取するごとに、後続音が先行音に比較し「高い」か「等しいか」か「低い」かを判断し、回答することが求められた。 被験者の反応を分析した結果、刺激音の音源方向が左右に移動する場合においては、音高知覚に顕著な影響が生じないのに対して、音源方向が上下に移動する場合には、音高知覚に影響が及ぼされ、空間誤差が生じることが明らかとなった。つまり、音源方向の高低の変化が、音高における高低の変化と一致する場合と逆転する場合とでは、音高の変化の知覚が異なり、上下弁別閾や主観的等価点が変動することが示された。この結果は、音高の表象が上下の空間的要因と密接に関連していることを示唆するものであると考えられる。
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