本研究の目的は、社会的ジレンマ状況-個人の自己利益追求(非協力行動)が集団全体にとって不利益をもたらす状況-で、個人がある種の戦略を用いた場合に、お互いの自己利益追求行動を規制しあい、皆が集団にとって利益となる行動(協力行動)をとる可能性を探ることである。 この目的のためにまずシミュレーション研究を行った。具体的にはコンピュータ上に200人の仮想集団をつくり、それぞれの個人は「集団のn%が協力するなら自分も協力する」という戦略をとる。nの値はランダムに決定される。このような状況を設定したのは、研究代表者の先行研究により、人々が実際に「他人が協力することを条件として自分も協力する」という戦略をとりやすいことが示されているためである。そしてコンピュータ上の個人はさらに、非協力行動をとった他者に罰を与える傾向を持ち、その傾向はランダムに決定される。罰を与えられた者は利益を減らされるが、それと同時に与えるものにとってもコストがかかる。このような傾向性に基づいて個人は協力行動をとるか非協力行動をとるか、非協力者を罰するかどうかを決定する。そしてこの決定を何回か繰り返した後、利益の少なかった個人は淘汰されるという状況を設定した。この方式はAxelrod(1986)で用いられたものであり、本研究とAxelrod(1986)の相違点は、人々がランダムに行動を決定するか戦略を用いるかである。本研究では主に、集団サイズ、罰の効果、淘汰の仕組みの3点を変化させ、Axelrod(1986)の結果と比較を行った。その結果、個人が戦略を用いる場合にはそうではない場合よりも容易に共栄(成員の殆どが協力行動をとる状態)が達成されることが明らかとなった。この研究の詳細に関しては裏面の寺井・渡部の2本の論文で報告している。また集団サイズの効果に関しては、Watabe&Yamagishi論文で報告している。 に実験研究を行った。これは上記の研究の前提となっている戦略の採用に関するものであり、人々がなぜ上記のような戦略をとるかかを調べるための探索実験である。具体的には1回きりの因人のジレンマ状況でも、相手の行動に応じて自分の行動を決定するかどうかを調べる実験であった。この実験の結果、多くの人は相手が協力した場合には自分も協力することが明らかとなった。しかしこの現象がなぜ起こるかについての明確な手がかりは本実験からは得られず、今後の課題とされた。
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