本研究は、3歳から6歳までの構音障害児・言語発達延滞児と正常な幼児を対象にし、(1)音響学的手法により、発話における韻律的特徴(基本周波数とその継時的変化、など)を明らかにする、(2)構音障害児および言語発達延滞児の韻律的特徴が、正常児のものからどのように逸脱しているかを明らかにする、(3)韻律的側面の評価法として最適と思われる方法について検討する、の3点を目的としている。本年度は、予備実験として、3歳の自閉傾向のない言語発達延滞児および5歳の自閉傾向のある発達遅滞児の発話をサンプルとして録音し、さらにその中から、無意味だが抑揚に富んだ比較的長い発話(ジャーゴン様発話)を抽出して分析した。また、ジャーゴン様発話が見られる正常な1歳児の発話も分析し、発達遅滞児の発話との比較を行った。分析には、3名の聴取者による聴覚的判断による分析と、コンピューターを用いた音響学的分析の2種を実施した。聴覚的分析では、各々のジャーゴン様発話セグメントに対し、「構音の成熟度」、「プロソディー」、「伝達の意図が感じられる度合い」、「発話の異常性」についての印象を5段階スケールで評価した。音響学的分析では、基本周波数の継時的変化について検討を行った。その結果、プロソディーの豊かさについての聴覚的印象については対象児の間でほどんど差がなかったにもかかわらず、音響学的分析の結果を見ると、自閉傾向のない言語発達遅滞児では基本周波数が比較的周期的に上下しているのに対し、自閉傾向のある児では基本周波数の変動に周期性が乏しいことが明らかになった。また、発話の意図性や異常性についての聴覚的判断には、構音の成熟度に関する印象やプロソディーのパターンなどの要因が関与していること、などが示唆された。今後は、対象児の数を増してデータを蓄積し、音響学的分析に基づいた韻律的特徴の評価法について検討してゆく予定である。
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