研究概要 |
人々が社会生活において「日常的に」表現する公正感について,その理解を深めていくためには,社会心理学的研究は今後どのような方向に進む必要があるのだろうか.3つの研究から基礎的データを収集した. 【□!1】 分配公正に関する心理学的研究における最近の動向として以下の点が確認された.(1)理論的・実証的研究の両者において,依然として,衡平(equity)原理と平等(equality)原理に関心が集中しており,発見法的な分配ルートについての研究が少ない.(2)分配結果の公正さとは別に,分配方法の公正さについての研究は増加傾向にあるが,分配原理と分配結果を区別して公正感を論じている研究はほとんどない. 【□!2】 分配における倫理的原理,方法,結果という3要素の独立性を検討するために一つの予備的実験を行った.その際,分配における立場の違い(分配者と観察者)を変数として加えた.その結果,以下の2点が明らかにされた. (1)分配における倫理的原理、方法、結果の公正さは互いに独立したものであり、3要素の区別が重要である. (2)上述の3要素が分配の全体的公正さの判断に及ぼす相対的影響は,判断者がその分配において占める役割に依存する.分配者は、自己の分配における論理的原理および方法が公正であるとしたときに、分配全体としての公平さが高いと評価したのに対して、観察者は分配の結果に注目し,分配全体としての公正さを評価した. 【□!3】 質問紙を用い,「日常生活の中で感じる公平・不公平なこと」を列挙するよう被験者に求め,内容分析を行った.全体的傾向としては,衡平理論で定義されているような厳密なinput/output比較に基づいた「公平・不公平感」よりも,むしろより簡略的な比較に基づいた「公平・不公平感」(たとえば,貢献度の無視)が多いことが示された. これらの結果から,「日常的認知」としての公正感を解明するために必要とされる研究の一方向が示された.
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