研究概要 |
実験研究に先立ち、注意の障害に関する研究動向をPsychological Abstractを中心に調べた。注意欠陥障害全体では年間100〜200件の報告がなされている。注意欠陥障害および近縁の障害における注意の異常については、認知生理的側面からは皮質活性と関連する脳内注意システムの障害説(Posner,1992)、行動薬理的側面からはモノアミン系の代謝異常説が注目された。さらに、脳波事象関連電位を指標とし、感覚統合訓練等の効果を調べた報告では(今塩屋,1993)、治療教育的援助により、障害が改善される可能性および可逆的な機能異常としての側面が指摘されている。このような動向を踏まえ、注意の機能を選択性、配分、維持といった諸側面にわたり総合的に把握する上で、従来法である注意持続検査法の限界と配分能力を重視する二重課題法の可能性を論じた。さらに、これらの検査法は、注意力の強化を目的とした認知行動療法的訓練の補助的教具としても応用しうるものと考えられた。 実験研究では、教示や身体の統制が難しいことが指摘されてきたことから、児童への適用に際し、成人用の二重課題法を改良する必要があった。配慮した主な点は、(1)教示を徹底するため具体的な達成目標を導入(2)反応用装置の改善である。(1)については目標点数と獲得点数を提示し、動機づけの効果を、心理行動指標および生理指標から検討した。その結果、課題成績は一部改善されるが、フラストレーションに相当する情緒面の心理的負担も増すことが示唆され、各人の課題遂行能力を十分考慮した達成目標の設定が必要と考えられた。なお、生理的変化は検出されなかった。(2)については、反応標的捕捉用のハンドルを大型化し、操作しやすいものに変えたが、児童により装置の扱いがシビアなため反応ボタンなど強度の向上が求められた。現在、健常児、障害児各1名ずつで予備的検討を進めている。
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