【研究実績の概要】 本研究の目的は、日本の近世社会がどのような文化水準のもとにあったのかを解明する一環として、近世期の越後・佐渡地域における書籍の流通実態を明らかにすることである。具体的には、越後・佐渡地域の書肆(本屋・書籍商)がどのようにして形成されてきたかを、以下のような方法で調査した。 (1)すでになされている全国的な調査から、同地域の書肆をリストアップした。 (2)同地域内で出版された書籍の奥付等の調査から、書肆名をリストアップした。 (3)同地域内の著名な文人関係資料から出入りの書肆を明らかにした。 (4)旅案内書等から書肆の所在を確認した。 このうち、本年度の研究においては、(3)の調査を中心的に実施した。なお、当初の予定であった(5)同地域の大規模書店の調査については、残念ながら有力な資料を得るに至らなかった。 以上の調査の結果、越後・佐渡地域においても、遅くとも18世紀後半には書肆が営業を始めており、近世期を通じて62軒の書肆が確認されること、さらに明治以後においては、明治以前の書肆を中核としつつも、明治10年代に書籍商形成上の飛躍が見られ、明治期を通じて260軒を超える書肆の存在が確認されることなどが判明した。 今次調査においては十分に解明できなかった、近世期から存在する有力な書肆の経営実態とその変遷、明治期以後については、書籍商の活性化と深いつながりがあると思われる学校教育との具体的な関係などを調査・検討することが、今後の課題として残された。
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