本研究は、社会変動による地域社会変容に伴う成人の再社会化過程の制約条件となっている被差別地域の社会特性を明らかにすること、さらにその制約条件の変容を促す可能性について、地域生涯教育における学習課題としての観点から検討することを目的として、研究計画にしたがい、以下の調査研究を実施した。 1 生涯教育研究の理論的検討を基礎とし、成人期生涯教育関連・地域社会の教育課題関連の国内外の文献を収集し、学習者としての成人の特性と被差別地域を含む地域社会の経済的文化的特性との関連に関する理論的検討をおこなった。2 調査対象地とした大阪府豊中市において、地域の実態把握のため、行政担当者等の専門家からの聞き取りと地域住民へのインタヴューを一部実施した。3 対象地域の市民参加による教育・文化活動に関し、これまでに収集した一次資料の再分析、活動の視察・活動参加者へのアンケート調査と聞き取りによる資料の収集を継続・追加した。(なお、本研究の調査対象地も今回の地震の被災地となったため、調査計画の一部は中断・変更を余儀なくされるとともに、今回の事態が地域社会の新たな変容をもたらしたことを付記する。) 以上により、地域住民・一般市民・行政担当者が相互に連携し合う、全国にさきがけた新しい形態の市民文化活動である「市民演劇」が成人教育としての機能をもち、その活動により「文化創造」としての意味をもつ新しい人間関係の創出が、被差別地域と一般地域との相互理解を促す人的交流を生み出す契機となることが指摘でき、このことから成人の再社会化過程の制約条件となる被差別地域の社会特性として、対外的な人的相互交流が進まなかった社会的閉鎖性を本研究の主な知見として指摘できる。そして、市民参加の教育・文化活動をこの地域社会特性の変容を促進する「社会的影響力」として再定式化し、分析することを今後の課題としたい。
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