視力の低い子どもにとって、単眼鏡の使用は欠かせない。しかしながら、弱視児は単眼鏡のピント合わせが困難(ピントの精度が低い)であることが指摘されている。その原因については、これまでは、弱視児の機器に対する不慣れさばかりが着目されてきた。しかし、本研究では、視力の低さそれ自体がピント精度を落とす原因になっているのではないかと予測をたて、研究を進めた。 仮説を検証するために、1)視力の違う被験者間でピントの精度を比べる実験、2)晴眼者を人工的に低視力にしてピント精度の変化を調べる実験を行った。両実験結果には、一貫して、視力が低いとピント精度が低くなる傾向がみられた。機器操作の習熟度が同じと考えられる同一被験者内でも、視力を人工的に低くするとピント精度は低下した。視力、つまり、観察者の視覚特性がピント精度を決定する要因であることが分かった。 次に、どのような刺激に着目すると、よりピント合わせの精度が上がりやすいかを調べるために視覚刺激を成分(空間周波数)に分解して提示し、それぞれの条件でピント精度を計測した。その結果からは、被験者が見ることのできる刺激の中で最も高空間周波数成分を利用するとピントの精度が上がることが分かった。視力が低くても、同様に、見える中で最も高い空間周波数成分に限定した刺激を利用すれば、ピント精度はそうでないときより上昇することが発見できた。 最後に、ここで得た知見を応用して、ピント合わせが比較的容易にできると思われる視標を試作した。今後、さらに修正を加えていくために、低視力者を被験者として、試作した視標を使ったときのピント合わせのしやすさ・しにくさを調べた。
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