研究概要 |
アメリカ合衆国に独自な大学の組織単位である「デパートメント」の成立・展開過程について,従来のアメリカ高等教育史研究は必ずしも系統的に検討してきたとは言えない。本研究では,史的実証的にデパートメント組織の成立過程を分析し,その編成原理の変遷を整理した。その結果,以下のようなことが明らかになった。 まず通説によれば,デパートメント組織は1890年代に成立したとされている。しかし本研究によれば,すでにその初期形態は1825年頃に認めることができる。それは,ハ-ヴァード大学およびヴァージニア大学においてである。この「初期デパートメント」は,教育組織の面からみれば,科目選択制の導入にともなうカリキュラムの分化形態である。また教員組織の面からみれば,ドイツの大学の講座制に類似した形態である。なぜならそれは,基本的には1人の正教授が主宰する組織だからである。 一方デパートメント組織は,19世紀の後半,アメリカの大学への「研究」機能の導入によって,組織的オートノミィ(自律性)を獲得するようになった。しかしこれも,基本的には1人の正教授によって「独裁的に」主宰されるものであった。その点でそれは,依然として講座制の変形形態であるとみることができる。 しかしこの自律化した「独裁的」デパートメントは,やがて「民主化」の段階を迎える。それは,20世紀のはじめ以降に見られる変化である。専門研究者としての大学教員が大学の管理運営の主導権を握るとともに,デパートメントは,大学の管理運営の基礎的単位組織となった。そして複数の教授・準教授・助教授から構成されるようになったのである。さらにその主任教授はデパートメント内の互選に基づいて,学長や学部長が任命するというシステムが確立してゆくのである。こうして現在に至っているのである。
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