フランスは公教育に組み込まれた一元的資格制度をもっており、このことがフランス教育の特質であると同時に、独特の教育=雇用関係を形成している。本研究では、フランスにおける資格の社会的効用と教育システムとの関連構造を明らかにするために、(1)労働市場内での資格の有用性の実態分析、ならびに、(2)近年展開されている資格制度再編論議の検討を行った。その結果次の点が明らかになった。 1.労働市場内では、賃金・昇進・昇給等が資格(学歴)水準の高低に基づいて厳格に階層化されており、それがこの国の学歴主義を根底で規定しているといえる。その格差は近年ますます拡大する傾向にあり、これが人々の高学歴指向に拍車をかけている。 2.この資格(学歴)ヒエラルヒ-を是正するために政府は、資格交付における能力評価の基準を従来のような<学校的>能力に限定せず、それ以外の多面的能力を積極的に評価することを基本的視点とした改革案を検討中である。ここで特に強調されているのが、<理論的能力から実践的能力へ>というテーマである。 3.上記改革案を一部実現するために制定された「資格交付のための職業経験の認証に関する法律」(1992年)は、職業期間中に獲得した知識技能を資格認定の要素に組み入れることを定めたもので、資格体系の再編をめざした画期的法律である。特に、理論よりも実際の職務遂行能力や経験を評価対象にする方途を具体的に定めている点が注目に値する。具体的な施行様式は目下検討中であるが、これが制度化されれば、選別的性格を強くもつ学校教育にも大きな変化が及ぶものと判断される。
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