研究概要 |
本研究の目的は,障害幼児の歌遊び場面を継続的に観察・分析し、障害幼児の音声情報処理過程の成立と、そのつまずきの諸相に関する資料を収集することであった。対象児は、障害幼児通園施設在籍の約40名であった。障害種別は問わなかった。観察と分析には「初期音声言語行動評価法」(菅井.1989,1994)を用いた。これは、歌遊び『げんこつ山のたぬきさん』を対象児と観察者とが対面し7つの条件下で行い、その場面をビデオ録画し評価、分析するものである。 全事例を分析中であるが、一例として、あるダウン症児の分析結果の概略を以下に記す。 本児の歌遊び場面における音声情報処理(即ち聴覚→構音回路の情報処理)は、視覚→動作回路、聴覚→動作回路という情報処理過程の形成を経て形成された。この結果は他の障害事例及び健常児の結果と同様である。ダウン症児は、器質的な構音の困難さを指摘されることが多く、筆者らの経験でも明瞭に歌えるダウン症幼児は少ない。しかし本事例のように、動作系の情報処理が向上するにつれて音声が明瞭になっていくことから、ダウン症児においても、動作によるコミュニケーションを重視することが、音声によるコミュニケーションを育てることになるのではないかと考えられた。また次に本児では、動作をしないで歌うと歌詞が欠落した。これは歌うこと、つまり発語には動作の概念が深く関係してあり、あるレベルでは、動作を同時に発しないと正確に発語できないことを意味していると考えられる。また、歌いながら動作をすると、提示される歌の分節的受信が困難になった。正確に聞き取る力を身につけるには、発信を止めることも必要であった。 このようなスタイルで現在各事例の経時的分析とつまずきの諸相の整理を継続中である。
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