研究概要 |
弥生〜古墳時代銅鏃研究のもととなる資料集成については,全国の遺跡・古墳出土資料約1300点の9割強に当たる1180点の実測図・寸法等のデータを集めることができた。それをもとに,製作技術の検討の出発点となる型式分類を試み,9系統15類型を設定できた。それらのうち主要かつ所属例数の多い系統(無篦被柳葉系・有篦被柳葉系)について,それらが一定本数まとまって出土した近畿地方の古墳の資料を中心に,形態・研磨技法・銅質等を重点として実地観察を行った結果,(1)弥生時代銅鏃は形状が不一定で個体差が大きいのに対し,古墳時代銅鏃にはおいては類型・系統毎にきわめて微細な技法・形状表現の規則(鏃身下縁・側縁S字カーブ,関部上面の段など)が段階的に成立し,最終的にはそれを厳密に遵守しながら規格性の強い個体群が量産されるようになること,(2)弥生時代銅鏃は錫分の少ない低劣な原料で製作されているのに対し,古墳時代銅鏃は錫分の高い良質の原料で製作されていることが判明した。また,(3)古墳時代銅鏃のうちでも,小墳墓や集落から出土するものは弥生時代の製品と変わらない特徴をもつ場合が普通であることにも注意された。以上の点から,古墳時代への移行とともに,弥生時代以来の実用的な銅鏃とは区別しうる儀器的色彩の強い銅鏃が創出され,鏡の〓製と軌を一にして量産が開始されるという銅鏃の形態・機能・製作体制における大きな画期の存在を見つけだすことができた。さらに,それが古墳時代前期の中央首長グループによる政治活動の痕跡を示している可能性を指摘できた。今後は,実体顕微鏡による製作痕観察をさらに推し進めることによって同一工房の製品群を抽出し,その製作および流通過程のより具体的な復元が期待できる。
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