今年度は、米が作り始められた弥生時代(石川県相川、徳前C、畝田遺跡、東京都下戸塚遺跡)、および炊飯用土器(湯沸し用の長胴甕と蒸し器である甑)とオカズ調理用土器(小杉甕)の分化が明瞭に確立した古代(奈良・平安時代、東京都高田馬場三丁目遺跡、上落合二丁目遺跡)の煮沸用土器について、脂肪組成の測定を行ってきた。その結果、高田馬場三丁目遺跡の第3号住居の通常の目的に使用されたと考えられる長胴甕と甑、廃棄後に火を受けたと考えられる第6号住居の長胴甕と甑を比較した場合、前者の土器の内表面試料は、加熱を受けている後者のものより「C18:0/C16:0」が低く、米の脂肪酸により近い傾向が見られた。すなわち、古代の長胴甕については、脂質の分解が進んでいるものの、土器の外表面に比べ内面の方が米の脂肪組成に近いことから、「長胴甕により米を調理した」という仮説と対応する、という結果を得た。一方、弥生土器については、これまで測定した数遺跡の試料は、土壌の脂肪組成と土器の脂質組成が大差ないため、土器の脂質組成は内容物の脂質組成を反映していない、という結果だった。弥生土器に関しては、土器の脂質組成の残存度は試料の外見からでは判断できないため、保存条件のよい試料(遺跡)に出会うまで、根気よく測定を続けることが必要である。また、古代の煮沸用土器については、米を調理(蒸す)したと推定される長胴甕・甑とオカズ用と推定される小型甕の脂質組成の差異を、より多くの試料(遺跡)により明らかにすることが重要である。
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