本研究は張赫宙の散逸している作品を日本のみならず、韓国の新聞・雑誌などからも収集することから始まった。日本で発表された作品は日本国内の多くの場所に分散しているため、戦前のものはかなり収集できたが、戦後のものまですべて網羅するのは一年間では困難であった。日本国内で発表された1945年までの作品に関して、構成・文体を分析し、日本・日本人像、朝鮮・朝鮮人像について考察した。初期の『餓鬼道』をはじめとする一連の作品は、日本帝国主義に反対するようなものであったが、その後朝鮮人の教師や金持ちの間に起こった争いや心理的な葛藤を描く作品、さらには在日朝鮮人を主人公とした小説をへて『加藤清正』『岩本志願兵』という日本の朝鮮出兵や軍国主義を擁護する作品を描くなど、その作風は変わってきた。しかし、韓国語で書かれた作品のなかで「日本語を使用するときとは態度をかえる」と言っているので、日本語で描かれた作品からのみ張赫宙の祖国観日本観等をさぐることはできない。そこで韓国語の作品をできるだけたくさん集めなければならなかった。韓国では、国会図書館やソウル大学で日本では発表されていないと思われる十作品ほどを見つけ出したが、発表当時の雑誌、新聞そのものを手に入れることができなかった。また文字選集に所収されていても初出などの記載がないものもあり、韓国内で作品を収集し、張赫宙の全作品年表を作成するにはまだまだ時間がかかりそうである。これからは今までに収集できなかった日本国内の戦後の作品を収集する一方で、韓国での作品収集につとめ、日本語に翻訳した上で張赫宙の日本観・祖国観を探っていきたい。
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